気体分離膜の合成とその機能

フッ素鎖を有する合成二分子膜と粘土鉱物とを複合化した酸素富化膜の合成

Study on a Gas-Separational Membrane

Synthesis of Efficient Oxygen Enrichment Membrane Composed of a Single-Chain Fluorocarbon Amphiphile and Clay

 

化学繊維研究所  諌山 宗敏 野見山 加寿子

 

 層状粘土鉱物であるモンモリロナイトと分子構造中にフッ化炭素を持つ合成 二分子膜とを複合化させた酸素富化膜を合成し,その特性を調べた。 粘土鉱物の持つイオン交換能を利用して,複合膜中に4級アンモニウム塩をインターカレートすることで,気体透過係数(R) 10-7オーダーの複合膜を作ることに成功した。 この複合膜は酸素富化性で,酸素/窒素の分離係数(α)は室温で 3.4 を示した。 さらに,膜の温度依存性の測定から,複合膜中の有機分子の熱運動によって酸素富化性が低下することが明らかになった。

 

1 はじめに

 最近,省エネルギー,公害防止などの観点から酸素富化膜に関する技術が注目されている。 通常,高分子膜に対する酸素や窒素の透過係数は高分子材料の化学構造,高分子鎖の凝集状態,結晶化度あるいは分子鎖熱運動などに依存して10-4〜10-7cm3(STP)cm/cm2sec cmHg の幅広い範囲で観測される。 他方,酸素と窒素の分離係数α(RO2/RN2)はRO2,RN2の大きさにあまり関係なく 2 〜 5 の範囲にある1)。 気体の透過係数が大きくなると分離係数が減少する傾向にあるため,透過係数及び分離係数 がともに大きな酸素富化膜材料を見い出すことは困難である。
 高分子膜による気体の透過機構は,膜表面における気体の溶解と気体の加圧側から低圧側への拡散及び膜面の気体の吸脱着による溶解-拡散機構でおおむね説明できる。透過係数は溶解度係数と拡散係数の積で表わされるため,透過係数の制御には溶解と拡散の寄与を別々に考えることができる。しかし、酸素と窒素の物理的性質は非常に類似しており,特に幾何学的因子の相違に基づく拡散係数の差がないため、酸素富化材料の製造の困難さは明らかである(表 1 )。酸素の溶解度係数と拡散係数は窒素のそれよりわずかに大きいだけであり,計算上分離係数αは,3〜5の値を示す。


表1 酸素と窒素の物理的性質
N2 O2
molecular diameter*/ 10-8cm 3.16 2.96
dielectric deformability
a / 10-24cm3
a / 10-24cm3

2.38
1.45

2.35
1.21
dipole moment / 10-18esu・cm 0 0
quadrispole moment / 10-26esu・cm2 -1.5 -0.4
solubility parameter (298K)/(J・cm-3)1/2 5.31 8.20

*caluculated from gas viscosity at 20K 


 シリコンゴムあるいはその共重合体は,分子鎖間距離が大きく,疎な構造をとり分子の屈曲性に富むため酸素の透過係数は 3.5 × 10-8cm3(STP) cm / cm2sec cm Hg と最高値を示しているが,分離係数αは 1.9 〜 2.8 と小さな値である。 また,ポリジメチルシロキサンは膜強度が弱いため,亀裂が入りやすく、分離係数は落ちるがポリカーボネート等との複合化を行って製造している2,3)。 効率の良い酸素富化膜を製造するためには,拡散係数を向上させるような分子構造が疎なものを見い出すか,溶解度係数を向上させるような化合物を添加させることが必要である。
 梶山らは,プラズマ重合薄膜,高分子/液晶/フルオロカーボン三元複合膜あるいはフッ素系人工両親媒性物質複合膜を用いて酸素富化膜を作成し,それぞれ 分離係数が5近くで酸素透過係数が10-5cm3(STP) cm / cm2sec cm Hg を示すことを明らかにしている4)。 膜の透過係数を向上させるためにこれらの膜厚は非常に薄くしてあり,そのため膜の機械的強度が小さくまたその作成には手間が掛かることが問題となっている。
 我々は,分離係数及び酸素透過量が大きく,さらに材料として機械的強度が十分で,しかも簡単な方法により気体分離膜製造を可能とすることを目的として,粘土鉱物を基に有機物との複合化を行い,酸素富化膜の開発を検討した。
 フィロ珪酸塩鉱物は、Si2O5の組成を持った配位4面体が2 次元的に配列したシート構造をしている。 2 枚のシートの間のAl,Fe3+, Mg 等は 6 個の O, OH で囲まれているので、8 面体シートと呼ばれる。 この様に 2 枚のSIO4面体シートと 1 枚の 8 面体シートからできている構造を 2:1 型という。 2 :1 型のケイ酸塩は,一つの結晶体が途切れた端の部分では 8 面体シートが剥き出しの状態となり,非常に反応性の高いことが知られている。 我々は,この 8面体シートを構成している AlO と P とを利用して粘土鉱物同士を連続化した薄膜の製造方法を開発した(図1)5)。そこで,リン酸の代わりにリン酸エステル系の有機化合物を反応させ,粘土鉱物の連続化と同時に有機・無機の複合化を図り,今までにない機能を持ち合わせた材料の開発について検討した。

 

図1 リン酸で架橋した粘度鉱物モデル

 

2 実験

 2−1 フッ素鎖を持つリン酸エステル化合物の合成

 今回,我々は分子配向性及び分子全体の屈曲性を考慮して分子設計し,Scheme1に従って合成した。各合成物の確認はガスクロマトグラフィー(日立 G-5000,キャピラリーカラム),液体クロマトグラフィー(Waters),IR(Pakin Elmer,Paragon1000) 及び NMR(Bruker, AP-250) を用いて行った。

Scheme 1

 


 最終生成物の純度は,生成物のリン酸部分をトリメチルシリルジアゾメタンを用いてメチル化した後,液体クロマトグラフィー分析を行い, 99 %以上であることを確認した。リン酸エステル化合物はモノリン酸エステル化合物か,ジリン酸エステル化合物かの判断が難しいためNMR分析により確認した。図2に合成されたアルコール化合物,図3にリン酸エステル化合物のNMRスペクトルを示す。リン酸エステル化されると,4.9 ppm 付近にリン酸エステルの水酸基によるプロトンシグナルが観測される。またリン酸エステル化合物をメチル化後すると,4.9ppm 付近のプロトンシグナルが消滅し,代わりに3.7 ppm 付近に 2 つのメチルエステルのメチル基に伴うプロトンシグナルが観測された。以上のことから,最終生成物がモノアルキルリン酸エステルであることを確認した。

 

図2 CF3(CF2)9CH=CH(CH2)9OHのNMRスペクトル


図3 CF3(CF2)9CH=CH(CH2)9OPO(OH)2のNMRスペクトル



図4 CF3(CF2)9CH=CH(CH2)9OPO(OCH3)2のNMRスペクトル


 2−2 複合膜の合成

 105 ℃で十分に乾燥したモンモリロナイト 0.03 g と所定量のリン酸エステル化合物とを超音波分散機を用いて水中に分散し,淡黄色の均一溶液を得た。得られた分散液はろ紙上に展開し,25 ℃,相対湿度 60 %で約 2 日間かけてゆっくりと乾燥した。乾燥したフィルムは,淡黄色で厚さがおよそ50〜60mmで亀裂はなかった。
 また,粘土鉱物層間に4級アンモニウム塩を導入することによって気体透過量を多くする方法についても併せて検討した。前述の複合膜を,n-ヘキシルトリメチルアンモニウム0.1M溶液中で1時間煮沸し,2日間室温に放置したのち,十分に水で洗浄し乾燥した。

 2-3 熱分析と電子顕微鏡観察

 フィルム中の有機分子の空気中での熱的挙動と微細構造を調べるため,示差熱量分析装置(セイコー電子 SSC200)及び走査型電子顕微鏡(日本電子 FE−SEM)を用いた。

 

3 結果と考察

3−1 複合膜

 フッ素系脂質を複合化したフィルムのDSC測定結果を図5に示す。層状粘土鉱物では観測されないブロードな吸熱ピークが68.1℃に観測され,フッ素系脂質にある炭素鎖部分のゲル/液晶相転移に伴うものと推定される。このことは,フッ素系脂質にある炭素鎖部分が複合膜中で配向していることを示し,効率の良い気体分離の可能性を示唆している。

 

図5 フッ素系化合物と粘土鉱物との複合物の示差熱量分析


 また,4級アンモニウム塩導入による影響を調べるため,複合膜のSEM観察とX 線回折を行った結果を図6と7に示す。SEM観察から4級アンモニウム塩の導入によっても膜に亀裂がないことが分かった。また,X線回折測定から4級アンモニウム塩の導入に伴って層間距離が広がるとともに,その層間距離を表わす長周期ピークが1種類であることから,4級アンモニウム塩がフィルムに均一に導入されていることが推察できる。

 

図6 複合フィルムのX線回折
a) フッ素系化合物と層状粘土鉱物       
b) a)に4級アンモニウム塩を導入したフィルム


 

図7 4級アンモニウム塩を導入した層状粘土鉱物の電子顕微鏡観察


 3−2 複合膜の気体透過特性

 複合膜の気体分離能を,酸素及び窒素それぞれの透過係数の比較によって検討した。透過条件は以下のとおりである。

透過面積      0.785 cm2(φ=10mm)

テストガス圧    200 torr

測定温度      25〜80℃

 フッ素系脂質と粘土鉱物との複合膜の気体透過の結果を図8に示す。気体透過係数(R)は 10-10 のオーダーであり,気体の透過はポリエチレンフィルムなどのほとんど気体を通さないフィルムと同等であった。さらに,温度依存性を調べたが,透過量が小さく有意差を認められなかった。

 

図8 フッ素系脂質と粘土鉱物の複合膜による酸素と窒素の透過係数R cm3(STP)cm/cm2sec cm Hg及び酸素/窒素の分離係数αの温度依存性


 

図9 フッ素系化合物と粘土鉱物との複合膜に4級アンモニウム塩を導入したフィルムによる酸素と窒素の透過係数R cm3(STP)cm/cm2sec cm Hgと酸素/窒素分離係数αの温度依存性


 次に,気体の透過量の増大を図るため,4級アンモニウム塩を導入したフィルムの気体分離係数について検討した。透過条件は3-3と同様である。結果を図9に示す。 気体の透過係数は,酸素,窒素ともに 10-7オーダーであった。 また,透過温度上昇とともに透過量が減少するとともに,酸素と窒素の分離係数も,温度上昇とともに減少していた。分離係数は,室温で3.4 ほどあり,分離係数,透過係数ともにシリコーンなどの物質に比べ低いものの分離膜として充分通用する範囲であった。
 また,4級アンモニウム塩を導入した複合膜の気体透過特性は透過量,分離係数ともに50℃付近から温度上昇に伴って低下することから,複合膜中の有機分子が熱エネルギーによる分子運動の増加を受けているものと考えられる。このことは,DSCの吸熱ピークの温度と一致することから,この分離膜が複合化した有機分子に大きく依存するものと考えられる。

 

4 まとめ

 今回の研究で次のようなことが分かった。

1)粘土鉱物との複合化にリン酸エステル系化合物を用いることができる。
2)分子構造中にフッ素鎖を有するリン酸エステル化合物を複合化すると,酸素富化性を示す。
3)気体分離機能は膜中の有機分子による熱運動に大きく依存すること。
 層状粘土鉱物の安価さ、有機化合物との複合化の容易さ、有機化合物の機能性の多さなど、層状粘土鉱物の機能材料への応用の可能性は多大であり、リン酸化合物を用いた複合化は更に層状粘土鉱物/有機化合物複合材料への可能性を広げるものと思われる。今後,粘土鉱物との複合安定化について詳細な実験を行い,材料の実用化あるいは応用化を検討する予定である。

 

5 参考文献

1)仲川勤;膜学入門, 中垣正幸編, 喜多書房,p273(1979)
2)W. J. Ward, W. R.. Browall R. M. Salemme, J. Membrane Sci., 1, 99(1976)
3)D. L. Maclean, T. E Graham, Chem. Eng., Feb. 25, 54(1980)
4)梶山千里;エネルギー・資源,63, 279(1985)
5)M. Isayama, K. Sakata, T. Kunitake, Chem. Lett., 1283(1993)
6)N. Higashi, T. Kunitake, T. Kajiyama, Polym. J., 19, 289(1987)


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